2019年1月18日金曜日

キトの奨学生プログラム

SANEには二つの主な活動があります。
一つは奨学生事業、もう一つは教育環境改善事業です。今日は奨学生事業のことをご紹介します。

SANEは元々中高校生への奨学生事業を行う会として設立されました。それは創設者のホセ・アルメイダ(通称ぺぺ)自身が貧しい家庭に生まれ、自ら働きつつ奨学金を得て大学まで卒業した経験があり、奨学金事業への信頼感(教育を受けることによって人は変わるという確信)があったからというのも理由の一つです。日本人にも奨学制度への支持はありました。支援している子どもが誰なのか顔が見えること、その子どもが高校卒業できるように支援するということがわかりやすいこと、学校教育への信頼感などがその理由でした。これは基本的に今もこの事業を支える考え方となっています。

奨学生プログラムは一人一人の子どもに長い時間をかけて、学習支援、社会の見方を学んだり、自分を知り自信を持って生きていける力をつける毎月の講座、日本の会員との毎月の文通などを行なっています。
今回は現地でどのようなことを行なっているのかご紹介します。
上の写真は、キトとカヤンベの奨学生たちです。彼らは時折交流をします。異なる地域の奨学生たちが交流することは互いの理解のために貴重な機会となっています。カヤンベの奨学生の中には卒業をしてキトの大学に進学する子もいます。近いとはいえ文化の違いや、初めての土地での生活の中での厳しい大学生活はカヤンベの子どもにとっては大きな試練の時です。そんな時にキトの仲間たちは大きな支えとなります。


これらの写真は奨学生を対象とした講座の様子です。講座のテーマは多様です。ドラッグやアルコール依存症などの怖さを知る講座、救急救命の方法、自己肯定感を待つこと、ジェンダーやセクシュアリティなどなど。多くは参加型で互いに話し合ったりグループに分かれて意見を出し合ってまとめて発表したりします。

SOJAEの事務所は日本人補習校の中にあります。ここはかつてはエクアドル在住日本人の子どものための学校でした。日本文化の環境の中で講座も行われます。そして日本文化も学びます。多くの子どもたちは見も知らぬ遠い国である日本の人たちが自分たちを支援してくれていることに対して深い感謝の気持ちと関心を持っています。中には日本語を学んでいる子どももいます。
もちろん、日本人のパドリーノ・マドリーナ(文通相手。エクアドルではパドリーノ・マドリーナは親代わりの存在の人を示しますが、SANEでは手紙を書く相手を指します。)との文通の中で、日本のことを色々と知っていく子どももたくさんいます。

この奨学生プログラムの中で活躍しているのが、卒業していった元奨学生たちとハンスザイデルというドイツのNGOで奨学金を得ている大学生ボランティアです。写真のような講座のほとんどは、ハンスザイデルのボランティアが無料で行なってくれています。彼ら自身が経済的に大変な家庭で育っており、ドイツの奨学金で大学で学んでいます。この奨学金を受けるのは難しいのですが、SOJAEの元奨学生たちも何人か選ばれています。SOJAEの卒業生は学業への姿勢ができているとハンスザイデルの担当者から褒められてます。

また、一人一人の奨学生にチューター(世話人)が決まっていて、これを担当しているSOJAEメンバーの多くが元奨学生たちです。このチューターは奨学生の家に家庭訪問をしたり、相談相手になります。さらに、講座の時にファシリテーターとしてあるいは助手として活動してくれています。
この卒業生の姿が後輩の奨学生にとっては何よりの憧れの対象となります。
左の写真の中でもたくさんの卒業生が一緒に活動しています。その多くは大学生ですが、教師やNGO職員となった社会人メンバーもいます。

私たちの奨学生プログラムは日本人会員との毎月の手紙交換(文通制度)も含めて、家族のように奨学生たちに寄り添って、時間をかけて育てていく事業なのです。

親たちも集まって作業をしたり、会合を持ちます。時には保護者の相談を受ける時もあります。青年期の彼らの中には親との関係がうまくいっていない場合もあります。そういう時は親子両方に話を聞きながらアドバイスをしていきます。

これまでのプログラムによる卒業生は約230人を超えました。多くの卒業生が社会に出て活躍しています。また、大学生もたくさんいます。家庭が貧しいために進学できない場合もありますが、それぞれの子どもが自分らしく自信を持っていきていけるように支援しています。
最後の写真は昨年の卒業生(右)と、そのチューターを務めた元奨学生です。こうして自分を育ててくれた人々への大きな信頼感とともに巣立っていくのです。そのことが厳しいこれからの生活の中で力となっていってくれるでしょう。

この事業が始まる時は、不安や抵抗感もありました。例えば学校支援となると支援の対象が広く、個人に限られることはありません。みんなに平等に行き渡る感じがあります。けれども奨学生支援は限られた中高校生を対象として、長い期間をかけて行うことになります。支援によって一人の人にどのような影響をもたらし、それが個人の成長と社会にどのような影響を与えるのかはすぐにわかることではありません。高校卒業が、その後の就職や進学に力となり、個人の幸せにとって効果があることはある程度は予想できますが、SANEのように対象者が35人と限られている場合、それが社会のより良い発展にどれほどの効果があるのかはそう簡単に評価ができないとも言えるでしょう。けれどもSANEの場合、大きな規模の支援はできないからこそ、少ない人数でも一人の子どもに時間をかけて関わっていくことで確実な何かが得られる可能性も出てくるのかもしれません。
そして、30年の時間を経て、多くの卒業生が活躍する姿を見ると、彼らからもう一つ支援の輪が広がっていると感じます。

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